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ワライフ認知症講座① 認知症介護が楽になる

DSCN1456株式会社ミヤビハウス 介護支援専門員
 小板 建太 氏

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従来の認知症医療

厚生労働省が2013年に発表した調査結果では、65歳以上の4人に1人は認知症か(MCI)軽度認知症と言われ、近い将来には1000万人を超える「認知症大爆発時代」を迎えると考えられています。ところが従来の認知症医療の現場では、医療が主体ではなく「介護で支える」という仕組みが作り上げられてしまい、認知症を介護する家族や施設は「介護力」で対応するしかありませんでした。実際のところ、認知症学の歴史の浅さから、治療方針や治療方法も確立されておらず、医療現場でも戸惑いがあったのです。その結果、認知症は医療から離れ、「介護」で支えることとなったのです。

 

医療と介護の両輪を近づける

今までの認知症介護は、医療との連携が上手に機能していないケースが多く、医療は認知症を遠ざけ、介護は介護力のみで認知症介護を行ってきました。その結果、非薬物療法などのケアを中心とした分野が注目され、いつからか薬物治療が認知症介護では、非人道的と言われ、薬を使わないことが良い介護と思われてきました。

ところが、介護現場では認知症による周辺症状(徘徊、易怒、介護拒否、幻視、不眠、無気力、うつ状態)などの対応で家族、介護職員は疲れ切ってしまい、在宅介護では施設入所者の増加、施設では介護職員の離職が社会問題にもなっている。それらの問題を解決するために必要となるのが、認知症医療と介護技術の両輪を近づけることにあるのです。医療だけでは解決しない人の関わりによる心の安らぎ、介護だけでは限界のある、中核症状(記憶、知能、学習)の進行を遅らせる治療、周辺症状の緩和など、互いに良い部分を補い、連携することができれば、認知症介護をより楽に提供することができるでしょう。

 

認知症医療の課題点

その課題の一つが、認知症学の歴史の浅さなのです。認知症が医学として本格的に研究されはじめて25年程度しか経っておらず、専門医もまだまだ少ないのです。では、認知症の治療をどこで受ければよいのか、多くは神経内科、精神科、老年科などが担当します。また、専門は違うがかかりつけ医が継続することもあります。ここで問題となるのが、学問の歴史の浅さと、認知症の周辺症状が各専門領域の疾患の症状と重複してしまうため受診する科によって異なった診断や治療がおこなわれるのです。その一つに、レビー小体型認知症があります。

○レビー小体型認知症の主症状○
元気がない、表情が暗い、パーキンソン症状、認知機能の低下、幻視 など

このような症状を神経内科では、パーキンソン病と同じように治療をしてしまい、パーキンソン薬の高用量処方により幻視が強く出てしまうなどの副作用で、介護負担が増加するケースもあります。同様の症状を持つ患者が精神科を受診すれば、その多くがうつ病と診断され、抗うつ薬を処方されてしまい、急激に身体機能の低下を起こしてしまうこともあります。その原因が専門医の不足に伴う認知症学の歴史の浅さなのです。

 

介護業界の課題点

現在まで、その多くの認知症患者を医療ではなく介護の力で支えてきた背景には、治療の方法も方針もなく、なかには不適切な治療も多く、薬による治療に拒否反応を抱くようになってしまったのです。その代表的な事例に睡眠薬使用の問題があります。

認知症の周辺症状の一つに不眠があります。この不眠が家族や介護職員を困らせる原因の上位に入っているのです。医療は睡眠が摂れないのであれば睡眠薬を処方する。介護側は睡眠薬は転倒の危険もあり、怖いので使用したくないと言う。また、暴力などの陽性症状が強ければ向精神薬を処方して寝たきりにさせてしまうこともある。その経験から介護側も向精神薬に過剰なほど抵抗を持つのです。ここで医療と介護の両輪がかけ離れてしまうのです。

 

家庭天秤法を知る

その両輪を近づけ、認知症介護が楽になり、様々な社会的な介護問題を解決できると期待されている物の一つが、「コウノメソッド」という認知症薬物投与マニュアルです。これは、名古屋フォレストクリニックの院長である、河野和彦先生が30年にも余る臨床経験から作り上げた認知症の学問です。その中の一つに、「家庭天秤法」という概念があります。それは、医師は家族や介護職員のように24時間患者を観察することができないので、もし、薬の副作用で状況が悪化すれば、医師の指示のもと、家族が薬の用量を加減しなさいという方法なのです。その方法を睡眠薬問題に当てはめれば、睡眠薬で転倒するようなら、医師の指示のもと、薬の用量を家族が半分にするなどの加減をすればよいのである。暴力などの陽性症状に当てはめれば、薬が効き過ぎてしまうなら、用量を加減すれば穏やかな状態で介護ができるのです。医療と介護の問題は、医療はそのような個々に合った用量をセンサリング(適量を見つける)することをせずに副作用を引き起こし、介護側から拒否されてきました。介護側も処方された薬をそのまま服薬させ、効き過ぎて、危ない状況になったとしても、医師の処方は絶対だと思うのです。その結果、薬は使わないほうが良いとなってしまうのです。家庭天秤法を医療と介護が共有することができれば、両輪が近づけられるのです。それには医療側の改革が必要意であり、また介護側も薬の知識などを真剣に勉強することが必要となります。

 

認知症治療薬の種類

日本で開発され、1999年に発売になった認知症治療薬(中核薬)がアリセプトです。中核症状(記憶障害、失見当、判断力障害、実行機能障害、失認、失行、失語)などの症状に対する薬です。2011年にはレミニール、メマリー、リバスチグミンのパッチ製剤が発売されました。治療薬といっても、認知症を根本的に治すものではなく、進行を遅らせる薬と捉えると分かりやすいと思います。人の脳内では、アセチルコリンといわれる脳内伝達物質で記憶などの情報伝達を行っています。アルツハイマー型認知症では、脳内のアセチルコリンを分解する酵素(アセチルコリンエステラーゼ)によって、アセチルコリン量が減少します。アリセプトはこの分解酵素を阻害する薬剤なので、結果的にはアセチルコリンを増やす効果があるのです。レミニール、リバスチグミンのパッチ製剤もアセチルコリンエステラーゼ阻害剤なので併用はできません。メマリーは作用の仕組みが異なるので、他の3製剤との併用ができることが特徴です。

 

陽性症状と陰性症状

認知症の症状を2つに分けて考える。陽性症状(徘徊、暴力、妄想、幻覚、過食、不眠、介護抵抗)。陰性症状(無気力、無関心、独語、うつ状態)認知症介護で家族や介護職員を悩ませるのはこの陽性症状です。薬も2つに分けて考えると、興奮系薬剤と抑制系薬剤となります。ここで重要なポイントになるのが、アリセプトは興奮系薬剤であること。もし、陽性症状が強い認知症の方がアリセプトを服用すると、興奮系薬剤であるため、介護負担が増えることになり、火に油を注ぐようなものです。陰性症状であれば、元気になった、活気が出たなどの改善が期待できるでしょう。ですから、認知症と一括りにアリセプトを服用すると、介護負担が増える可能性があるため、現在の状態が陽性なのか陰性なのかを見極める必要があるのです。ここでも認知症介護の鉄則、「多ければ減らせ」家庭天秤法が鍵となるでしょう。

 

介護者を救う認知症治療

認知症介護は経済的、精神・肉体的にも想像を超える過酷さがあります。もし、介護をする家族が倒れてしまえば、認知症の方は住み慣れた自宅で過ごすことはできません。もちろん、その人らしく、本人を中心にケアをすることは前提です。認知症介護の特殊性として、本人の後ろには常に介護をする家族がいるということです。その家族に対するケアも重要となります。

困った症状を副作用を出さずに減らすことができれば家族は救われるのです。それには介護家族や介護職員が医療を学び、副作用による介護負担を見抜くことができるようにならなければいけません。認知症は、「財布を盗まれた、まだご飯を食べていない」だけではありません。病型によっては使用してよい薬剤、使用してはいけない薬剤があるのです。

 

次回はレビー小体型認知症の見分け方、症状、服薬の知識、副作用についてご紹介します。

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