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親の介護 アルツハイマーの母から学んだこと その十四

親の介護 アルツハイマーの母から学んだこと その十四

「あんたは誰だったかねー、最近息子が来んだけど」

母が認知症の病棟に入院し5年程が経ち、年齢は72、3歳になったころでした。いつものように病室に行くと私の顔をまじまじと見つめ「あんたは誰だったかねー?最近息子が来んだけど」と呟きました。私は一瞬言葉を失い『ついにこの日が来たか』と内心うろたえましたが、「ここにおるじゃん」と自らを指差し答えました。母は「そうだったかなー?うちの息子はもっと若いぞん」と納得はしていないようで、この日はその後何度も「最近息子が来んだけど」「ここにおるじゃん」を繰り返しました。

『忘れられた』後、どういう感情を抱くのだろう

覚悟はしていたものの私のことを忘れられてしまうのはショックでした。しかし年齢的にはまだ70歳をこえてわずかですが、アルツハイマーの診断を受けてから5年以上が経ちます。いろいろなことができなくなったり、わからなくなって来ていましたが、子どもや孫などのことは幸い覚えていてくれました。ついに私のことがわからなくなり悲しく寂しい気持ちでしたが、よくここまで覚えていてくれたという思いもありました。さらにまだ『息子の存在』を忘れていないのは救いでした。私はこれからどう母と接していけばいいのかより、どう接しられるのか、どのような感情を母に抱くのかという自分自身に不安を感じていました。

『この人の子で良かった』

息子の顔も定かではないようになってもからも週1日程度の見舞いに行っていました。私が息子であることがわからなかったからといってその日を境にまったく忘れてしまったのではなく、そのときどきで誰だかわかったりわからなかったりの状態を繰り返しました。
そんなある日、見舞いに訪れ、母と病棟のホールで話をしていた時、他の患者さんとそのご家族が来て近くのテーブルに着きました。そのご家族にはお孫さんと思われる二人の愛らしい娘さんが一緒でした。母はその子たちを見た途端「可愛い」と周りに聞こえる大きな声を出し、しばらくの間、笑顔で見つめ喜んでいました。その瞳は幼子のような純真なものに私には見えました。何だか私はとても嬉しい気持ちになり、ふと心の中で『この人の子で良かった』と呟いたのでした。

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