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障害者施設での「公文式学習」の活用②

 公文式学習」は障害者のための就労移行支援施設、就労継続支援施設(A型、B型)、知的障害者向け「大学」、フリースクール、医療機関、障害者自立支援施設、特別支援学校などさまざまな施設で導入されています。

 WEBワライフ「障害者施設での『公文式学習』の活用」に続き実践例を、「KUMON」ホームページもとにご紹介します。

 

 

なぜ障害者施設で「公文式」が取り入れられるの?(実践例の紹介)

 障害者の施設で広まっている理由を「公文式学習」を導入している施設の方の声から見ていきます。

④就労できる能力とは、“働きたい”という意欲、そして“自己肯定感”

就労移行支援事業所での声

学力に合った教材を提供できるので集中できる

 勉強が苦手あるいは集中して作業を続けにくい利用者さんには、学習するということ自体がむずかしいのではないかと思っていました。たしかに、はじめのころは学習をしたがらない方もいましたが、各利用者さんの学力に合った教材を提供できるので集中できるんです。

 その集中して学ぶ姿は、われわれスタッフにも新鮮でしたが、なによりご本人がうれしいのではないかと感じました。“きちんとできて、すごいですね”と言葉をかけたときの笑顔が輝いています。

 

認めて、ほめると、心にゆとりができ、できないことができるようになる

 ある利用者さんがどんなことができて、どんな問題をかかえ、何を求めているかといった評価をします(アセスメントと言います)。作業中心のときもアセスメントをしていましたが、公文式学習でも同じようにできることがわかりました。それも作業中心のころよりも質の高いアセスメントができています。

 作業中心のころは、どうしても作業の完了を先に考えるので、お一人おひとりの利用者の方をじっくり見る余裕が足りなかったと思います。公文式の時間では自分に合った内容を学習するので、お一人おひとりの状態や得意な面も不得意な面もよく見えるようになりました。それも、できることをしてほめられた状態で見るので、利用者の方もうれしいはずです。認めて、ほめると、心にゆとりができ、できないことができるようになるんです

 

公文式で『苦手な勉強』でなく『自ら学ぶ』へ

 公文式学習で培った「職場を意識した学習作法の習慣」と自己肯定感がいちばん大きいと思います。就労するためのスキルや能力はいろいろあると思います。障害があっても特定のスキルや能力にとても長けている人もいます。でも、その能力を最大限に発揮できるのも、自己肯定感があればこそだと思います。人とのコミュニケーションも、自己肯定感があるのとないのとでは大きく違うと思います。自分のよりどころをしっかりもっているからこそ、人とかかわりあうことができ、少々のことではへこたれないのではないでしょうか。

 

公文式に出会い、“勉強”ではなく“自ら学ぶ”ということに自信をもてるようになった

 就労できる能力や長く働きつづけられる能力というのは、“働きたい”という意欲、そして自分もやればできるのだ、という自信に裏打ちされた自己肯定感だと思うのです。もともと“勉強”が苦手であった彼らが、公文式に出会い、“勉強”ではなく“自ら学ぶ”ということに自信をもてるようになったのは非常に大きいと思います。

 

⑤集中力や持続力だけでなく、考える力や積極性も身についてきた

就労移行支援事業所での声

集中力がとぎれない、持続力がつく、これは就職にも役立つ

 自分自身(スタッフ)が公文を小学1年から6年まで学習していたので、教材の構成や指導法はわかっていました。でも、支援事業所で障害のある方が学習するというのは、正直しっくりこなかったのです。ところが、学習がスタートしてみると、利用者のみなさんがほんとうに集中して学習する。その集中力がとぎれない、つまり持続力がつく。これは就職にも役立つだろうと肌で感じられました。

 

きちんと考えて、自分の言葉で話せるようになり、コミュニケーションができるように

 これは国語の学習の成果なのだと思いますが、ほとんどの利用者さんが、きちんと考えて、自分の言葉で話せるようになり、コミュニケーションができるようになりました。入所したばかりのころは、わたしが説明し、それにうなずくか、一言返事をするくらいだったのが、学習を積み重ねるにしたがい、会話が成り立つようになりました。これは驚きでした。

 

 

自分でハローワークに行って求人票を持ってきたこと

 公文のことを聞いたとき、エッ?と思いましたが、実際に利用者さんが集中して学習しているのを見ると、なるほど、これを毎日すると就職にもいいだろうなと実感できました

 はじめは読み書き計算の力がつくだけかなと思っていたのですが、しばらくすると、それ以外の力もついていることがわかってきました。入所してすぐのころは、何を聞いても“わからない”としか言わなかった利用者さんが、こちらの質問を受けとめ、自分の言葉で返すようになりました。考える力がついたのでしょうね。でも、いちばんびっくりしたのは、自分でハローワークに行って求人票を持ってきたことです。“これならできると思って…”と、自分で考えて判断ができるようになったんだと思います

 

⑥あいさつが元気にできるようになる。人と積極的にかかわれるようになる。

就労移行支援事業所での声

成長をほめたいので、利用者さんお一人おひとりをよく観られるようになりました

 学習した教材を利用者さんが提出したり受け取るとき、“失礼します”“よろしくお願いします”などのあいさつをしますが、そのあいさつがふだんの生活のなかでも活きてくるのです。以前は、かすかな声での“おはようございます…”だった利用者さんが、大きく元気な声で“おはようございますっ!”と言うようになったり、ほとんど会話がなかった利用者さんが、何かあると声をかけてきてくれたり、質問してくれたり。やはり、利用者の方それぞれができるとことをくり返しながら学習し、それをほめられるので、日に日に自信が大きくなるのだと思います。その自信が、利用者さんをさらに成長させているように思えます。自分自身の変化もありました。その成長をほめたいので、利用者さんお一人おひとりをよく観られるようになりました。

 

いまは“できるようになるために、どうするか?”とプラス方向で考えられるように

 利用者さんに笑顔がほんとうに増えたと思います。それは、わたしたちスタッフも同じです。自信をつけて笑顔が増えた利用者さんたちを見ていると、わたしたちもうれしいので、自然に笑顔になってきます。もうひとつよかったのは、利用者さんお一人おひとりの見方が変わったことです。以前は“できないところをどうするか?”とマイナス方向で考えていたのですが、いまは“できるようになるために、どうするか?”とプラス方向で考えられるようになりましたから。たとえ結果は同じでも、できるようになったときの利用者さんとわたしたちのうれしさは大きく違いますね

 

⑦“できた︕”っていう成功体験を重ねること

就労移行支援事業所での声

利用者様一人ひとりをよく見て、その日の状態に合った対応や言葉かけができるように

 公文の学習はとても興味深いです。健康面やメンタル面も含め、その日の状態が良くも悪くも学習にあらわれてくるのです。状態の良い日は教材を学習する時間も速く、ミスも少ないのですが、良くない日は時間がかかり、ミスも目立ち、字までも乱雑になってきます。そういったことを日々見ているうちに、利用者様一人ひとりをよく見て、その日の状態に合った対応や言葉かけができるようになりました。このことは、自分自身、大きな変化だと感じています。

 

失語症と診断された利用者様が、公文の学習を続けるうち、言葉として出てくるように

 しかし、公文の学習でいちばんいいなと思うのは、“できた︕”っていう成功体験を重ねることですね。自己肯定感ももてるでしょうし、メンタル的にも強くなると思います。実際、失語症と診断された利用者様が、公文の学習を続けるうち、国語や英語の学習で音読をくり返すうちに、言葉として出てくるようになったことにすごく驚いています。音読練習の効果もあるとは思いますが、成功体験が大きく影響しているのかなと思っています。

 

あいさつの言葉が、それに合わせたおじぎも含め、職場で自然にできる

 うちを巣立って仕事に就いた利用者様方から“公文をやっててよかったです”というお話をたて続けに聞いたのです。というのも、“よろしくお願いします”、“ありがとうございました”、“失礼します”といったあいさつの言葉が、それに合わせたおじぎも含め、職場で自然にできるそうです(※用語解説をご参照ください)。そして、仕事を集中して続けられるのをほめられることも多いと聞きました。“公文の学習をしているときにはわからなかったけど、会社に入って初めて、公文の学習で身につくものの大切さがわかりました”と、異口同音に話されるので、わたしもびっくりでした。

 

⑧リハビリテーションと公文式学習の共通点 “できることを増やす”

医療機関での声

体系だった教材と指導法があると聞いて、心強い

 はじめ、「医療の現場に教育を…︖」と疑問ばかりでしたが、高次脳機能障害(※用語解説をご参照ください)の認知リハのなかには百ます計算や文章を読むような課題もあると気づき、疑問や違和感はなくなっていきました。反対に、体系だった教材と指導法があると聞いて、心強いとも感じました。ただ、これまでずっと医療として患者さんにリハをしてきたわたしたちが、教育という面でも患者さんに対応することは、リハにプラスアルファでの学習とはいえ、それなりの責任の重さを感じ、不安な面があったことは確かです。

 

公文の学習がふつうの生活にもどるための負荷やトレーニングになる

 公文式学習をはじめてみて、その大切さが実感できました。当院に来られる患者さんの多くは復職や復学、つまりふつうの生活にもどることが目標です。けれど、ふつうの生活にもどるためには、病院での医療としての作業・理学・言語聴覚療法などのリハだけでは足りないのです。いい意味での負荷やトレーニングがもっとあれば、復職や復学の可能性がさらに高くなるといつも考えていました。まさしく公文の学習がその負荷やトレーニングになると感じられるようになってきたのです。

 

100点をとることでの満足感や達成感、それらが積み重なっての自己肯定感も育っている

 個人差はありますが、10枚、20枚と教材に集中して取り組むという、作業・言語聴覚療法のリハに近いトレーニングをしていることになりますから、全体的には集中力や注意力が培われます。それが機能としての記憶や遂行機能の底上げになっていると感じますね。もちろん、学習を続けていくモチベーションとして100点をとることでの満足感や達成感、それらが積み重なっての自己肯定感も育っていると思います。もう少し細かく見ていくと、注意や集中を持続しにくい方は、学習の後半でミスが出やすくなるという傾向があります。そんな方には“学習の後半も集中しましょうね”と声をかけるだけでも、注意が持続できてミスが減り、ご本人の自信につながるということがあります。細かいことのようですが、職場に復帰して仕事をするという場面で役立つのではと思っています。

 

 

 

用語解説

あいさつの言葉、それに合わせたおじぎ

 公文式学習を導入している就労移行支援事業所では、学習の始めと終わりのあいさつ、学習した教材の採点時の受け渡しのときなどに、「失礼します」「よろしくお願いします」「ありがとうございました」といったあいさつを、おじぎも合わせ励行しています。これは公文式学習を「仕事」ととらえ、学習の場を「模擬的な職場空間」にしています。これは礼儀作法を身につけるための着想であり実践です。もちろん、公文式学習の最大の目的は、学力をつけ、集中力や持続力などを養いつつ、能力全般を高めていくことですが、こうしたあいさつやおじぎは、仕事に就いてからのほうが役立つようです。

 

高次脳機能障害

 脳卒中などの脳血管系の病気、交通事故による脳挫傷などの脳損傷が原因で、脳の機能のうち、言語や記憶、注意、情緒といった認知機能に起こる障害を高次脳機能障害と言います。記憶力や注意力の低下、感情のコントロールが困難になるなどの症状も現れますが、その症状は百人百様です。

 

WEBワライフ「障害者施設での『公文式学習』の活用

 

 

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