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「夜間中学」って知ってますか?

 「夜間中学」…聞いたことがある人も多いと思います。しかしちょっと考えると「中学は義務教育なのになぜ夜間にあるの?」と疑問も持たれる方もいるかもしれません。

 「『定時制高校』は知っているけど、『夜間中学』ってどんなところ?」「どんな人が通っているの?」「どんな学校生活なの?」など、「夜間中学」の基礎知識をお伝えします。

 

 

「夜間中学」と「自主夜間中学」

 「夜間中学」と言われるところは、大きく分けて二種類あることはご存知ですか。一つは自治体が設置する公立の『夜間中学』、もう一つは市民が自主的に運営する『自主夜間中学』があります。

夜間中学(公立)

 「夜間中学」とは公立の中学校で夜の時間帯に授業が行われる学級のことを言います。「中学校夜間学級」とも言われます。

 「なぜ公立の中学校で夜間に授業があるの?」と思われる方もいるかもしれませんが、成り立ちなどについては後の項をご参照ください。

自治体に設置を義務化する法律が成立

 2016年12月に「義務教育の段階における普通教育に相当する教育の機会の確保等に関する法律」が成立し、この法律で全ての地方公共団体に、夜間中学における就学機会の提供等の措置を講ずることが義務付けられました。今後、自治体においては、夜間中学の新たな設置や、いわゆる自主夜間中学等における学習活動への支援などに取り組むことが求められます。文部科学省では、夜間中学が少なくとも各都道府県に1校は設置されるよう、その設置を促進しています。

 実は今、夜間中学のニーズは高まっているのです。その理由も後の項をご参照ください。

「夜間中学」は全国8都府県に31校(2017年現在)

 「夜間中学」の設置数は全国8都府県に31校、在籍は1,687名です。(文部科学省「平成29年度夜間中学等に関する実態調査」(調査2017年7月1日)より)

 

自主夜間中学

 民間のボランティアなど市民が自主的に義務教育未修了者や外国人などに基礎教育を提供するために運営する学習支援組織のことです。地域の社会教育施設などを利用し、夜間に授業をしています。

 自主夜間中学のほか識字講座などの取組もあります。自主夜間中学・識字講座では中学校の卒業証書はもらえませんが、161の市区町村で1,533件の取組が行われています。(文部科学省「平成29年度夜間中学等に関する実態調査」(調査2017年7月1日)より)

 また自主夜間中学や識字教室で学ぶ人の数は、約 7,400 人を数えます。(参加者構成:外国人(約 60%)、義務教育未修了者(約 5%) ・不登校等により義務教育を十分に受けられなかった義務教育修了者等(約 4%) )文部科学省「中学校夜間学級等に関する実態調査の結果(概要) 」(調査2014年5月1日)より

 

ではなぜ夜間中学は誕生し、その必要性が高まっているのはどうしてなのでしょう?

どうして夜間中学は誕生したの?~成り立ち

戦後の混乱期、昼間学校へ通えない人たちのために始まった夜間中学 

 戦後の混乱期には生活が大変で、中学校に通う年齢の人の中には、昼間は仕事をしたり、家事手伝いをしたりと、昼間に中学校へ通うことができなかった人がいました。そこで、戦後、そういった人たちに義務教育の機会を提供できるように、仕事などが終わった後、公立中学校の二部授業という形で、夜に授業が受けられる夜間学級を設置したのが夜間中学の始まりです。

 1950 年代後半になると、夜間中学の数は80校を超えましたが、高度経済成長期には経済水準は上昇し、就学援助策も整備されるなどしたため減少していきます。夜間中学の必要性は弱まり、また当時の文部省は、学齢期を過ぎた生徒は成人講座や通信教育で補う方針を示すなど、夜間中学に否定的な姿勢だったため、その存続が危ぶまれました。

 しかし韓国や中国との国交正常化により日本へ引き揚げて来た人たちが学び直しを希望するなど、夜間中学は新たな存在意義を発揮します。さらに、1970年代は、不登校という現象が社会問題化するようになり、再び夜間中学の存在が注目されるようになりました。

自主夜間中学―『形式的な卒業』をした人たちの学びの場として  

 不登校の人たちには学校に十分に通わないまま「形式的には卒業した人」がいます。その人たちが改めて夜間中学で学びたいと入学を希望しても,以前は一度中学校を卒業したことを理由に基本的に入学を認められませんでした。

 そうした事情から、不登校などにより義務教育を十分に受けられなかった人たちの学習権の保障などを目的に、市民によって「自主夜間中学」や「識字教室」がつくられました。さらに公立の「夜間中学」の数も少なく、限られた地域だけだったこともあり、「自主夜間中学」や「識字教室」は全国に広がってきました。

 

「夜間中学」(公立)には、どんな人が通っている?

どのような年齢の人が、どういう理由で夜間中学で学んでいるのでしょう?

 年齢別でみると、すべて、通常の学齢を過ぎた人で、60歳以上の生徒が456人(27.0%)、15~19歳の生徒が73人(20.3%)で幅広い世代の人が通っています。

 入学の理由は、高等学校入学や中学校教育の修了を目指すほか、中学校程度の学力や読み書きの習得など多様です。

どのような人たちが学んでいるのでしょうか?

 現在、夜間中学に通う人は、戦後の混乱期に学齢期を迎えたために学校に通えなかった人や、いわゆる中国残留孤児の人、親の仕事や結婚などに合わせて来日したものの日本の学齢を経過していた人、昼間の中学校で不登校となって中学校を卒業しなかった人、不登校等のためにほとんど学校に通えないまま中学校を卒業した人、また日本国籍を有しない人などさまざまです。(生徒数1,687名の内訳)

  • 義務教育未修了者…………………258名(15.3%)
  • ・入学希望既卒者(※1)……………73名(4.3%)
  • ・不登校となっている学齢生徒……0名
  • ・日本国籍を有しない者(※2)……1,356名(80.4%)

 

  • ※1「入学希望既卒者」…さまざまな事情からほとんど学校に通えず,実質的に十分な教育を受けられないまま学校の配慮等により中学校を卒業した者のうち,改めて中学校で学び直すことを希望する人。
  • ※2「日本国籍を有しない者」…仕事や国際結婚で日本に来た外国人やその家族、特に外国人労働者やその家族が多いとみられています。国籍別では中国が568人、ネパール225人、韓国・朝鮮202人、ベトナム122人とアジア圏の出身者が多くいます。)

文部科学省「平成29年度夜間中学等に関する実態調査」(調査2017年7月1)より

 

中学を卒業した「既卒者」も対象に

 以前は、中学既卒者が「夜間中学」の入学を希望しても,一度中学校を卒業したことを理由に基本的に入学を許可せれてきませんでしたが、

  1. 自主夜間中学や識字講座といった場において不登校等により義務教育を十分に受けられなかった義務教育修了者が多く学んでいること(2014年文部科学省「中学校夜間学級等に関する実態調査」)
  2. 親による虐待や無戸籍等の複雑な家庭の事情等により,学齢であるにもかかわらず居所不明となったり,未就学期間が生じたりしている者が存在すること(2014年厚生労働省「『居住実態が把握できない児童』に関する調査」、2015年文部科学省「無戸籍の学齢児童生徒の就学状況に関する調査」)

などから、文部科学省は、実質的に中学校の教育を十分に受けられなかった場合は、夜間中学校入学を可能とするとの通知を2015年7月に全国の教育委員会に出しました。(文部科学省「義務教育修了者が中学校夜間学級への再入学を希望した場合の対応に関する考え方について(通知)」)

 

夜間中学を少なくとも都道府県に1校は設置へ

外国人や不登校だった生徒など、夜間中学の潜在的なニーズは高い

 不登校、虐待などさまざまな事情からほとんど学校に通えず,実質的に十分な教育を受けられないまま中学校を卒業した「既卒者」のほか、2010年の国勢調査では義務教育の未修了者が外国人を含め12万人以上いるとされること、また労働力不足を背景とした外国人労働者の増加などから、文部科学省は、不登校だった生徒や外国人など、夜間中学の潜在的なニーズは高いとみています。文部科学省では、少なくとも各都道府県に1校は夜間中学が設置されるよう、また、既存の夜間中学において多様な生徒の受入れ拡大が図られるよう、さまざまな支援を行っています。

昼間の中学校で不登校となっている生徒も支援

 また2017年の調査では、不登校となっている学齢期生徒で夜間中学に通う生徒はいませんが、今は昼間の中学校で不登校となっている生徒が希望する場合には、夜間中学で受け入れ、支援を行うことも可能となっています。

 

 

では実際の夜間中学ではどのようなことが行われているのでしょう。

どんな学校生活を送っているの? 

授業だけじゃない、遠足や運動会も

 夜間中学は「公立の中学校で、夜の時間帯に授業が行われる学級」ですので、基本的には昼間の中学校と大きな違いはありません。

卒業年数…原則週5日間の通学で3年間です。

授業時間…一般的な授業時間は、平日の夕方から夜にかけての1日4時間程度です。

教員…夜間中学は公立中学校の夜間学級ですので、先生は昼間の学級と同じ教員免許を持った公立中学校の教員です。

教科書…昼間の学校と同じ国の検定に合格した教科書です。

資格…中学校の卒業証書が授与されます。卒業後、定時制高校や昼間部の高校に進学する人、職業訓練校に入る人もいます。

費用…昼の公立中学校と同様に、授業料や教科書代は不要です。(一部の教材費や給食費、遠足や修学旅行等の費用が必要になる場合があります。)

行事など…授業以外に学級活動、掃除などの時間もあり、運動会や文化祭、遠足、修学旅行などさまざまな行事が行われています。給食がある学校もあります。また学期ごとに定期テストもあります。

年齢・国籍などさまざま~実態に合わせ工夫をこらした教育実践

 夜間中学は公立の中学校ですが、昼間の中学校と大きく違うのは生徒です。夜間中学には、年齢・国籍等による生活経験や学力も一人ひとり異なるさまざまな生徒が通っています。そのため、実態に合わせたさまざまな工夫をこらした教育が行われています。例えば

  • ・年齢で授業の内容を分けるのではなく、習熟度によるクラス編成。
  • ・小学校の内容にさかのぼっての学習。
  • ・生徒の学力に応じた教材の準備や補習。
  • ・日本語指導の先生や通訳の人の配置。
  • ・漢字練習帳など日本語テキストのような教材を使用。
  • ・日本語指導が必要な生徒に対する特別の教育課程の編成。

などのさまざまな取り組みがされています。

 

豊かな人生を送るため学びの機会の確保を

文部科学省は、夜間中学の設置を促進

 上記のように、不登校だった生徒や外国人などを中心に、潜在的に「夜間学校」や「自主夜間学校」「識字教室」を必要としている人は多数います。2016年の「義務教育の段階における普通教育に相当する教育の機会の確保等に関する法律」の成立で、文部科学省では、少なくとも各都道府県に1校は夜間中学が設置されるよう、また、既存の夜間中学において多様な生徒の受入れ拡大が図られるよう、さまざまな支援を行っています。さらに自治体には、夜間中学の新たな設置や、自主夜間中学等における学習活動への支援などに取り組むことが求められます。

まだまだ少ない「夜間中学」

 今後、各地で設置が進むことが見込まれますが、2017年時点で、公立の「夜間中学」の設置は8都府県に31校とわずかで、北海道、東北、九州、四国にはないのが現状です。(※愛知県名古屋市には公益財団法人愛知県教育・スポーツ振興財団が運営し、名古屋市教委が教師を派遣している「中学夜間学級 」がありますが、31校には入っていません。)

 また自主夜間中学や識字教室も上記法律の成立で、公的支援を受けやすくはなりますが、財政面ではまだまだ厳しい状況です。

年齢又は国籍等にかかわりなく、能力に応じた教育機会を確保

 「義務教育の段階における普通教育に相当する教育の機会の確保等に関する法律」の総則の基本理念の一つには、次の項目があります。

「義務教育の段階の普通教育に相当する教育を十分に受けていない者の意思を尊重しつつ、年齢又は国籍等にかかわりなく、能力に応じた教育機会を確保するとともに、自立的に生きる基礎を培い、豊かな人生を送ることができるよう、教育水準を維持向上」

 多様な背景を持った人たちの学びたいという願いに対応して幅広い教育を行うなど、学びの機会の確保のため夜間中学は重要な役割を担っています。

 

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