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ワライフ認知症講座③ 認知症は物忘れだけではない

DSCN1456株式会社ミヤビハウス 介護支援専門員
 小板 建太 氏

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認知症タイプと失語症タイプ

前頭側頭葉変性症(FTLD)とは、前頭葉と側頭葉の変性疾患の総称で、その中にはいくつかのタイプがあり、失語症タイプと認知症タイプに分けられています。失語タイプでは、進行性非流暢性失語(PNFA)と意味性認知症(SD)があり、共に認知症の失語状態と理解すると解りやすいでしょう。もう一つが前頭側頭型認知症(FTD)で、最近では多くの方が聞いたことがある疾患がこのピック病なのです。ピック病は様々な行動・心理症状が出現し、家族、介護スタッフを困らせる疾患であると言われています。前頭側頭型認知症(ピック病)は、前頭側頭葉変性症から、進行性非流暢性失語と意味性認知症を除いた疾患だと言われています。しかしこれらの疾患の病状は多岐にわたっていたり、重複する症状があることから、認知症を専門としている医師でさえ診断は難しいとされています。また、統合失調症やうつ病などの精神疾患と診断されているケースもあり、長期の入院生活を送っている方も多くいると報告されています。

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前頭側頭型認知症:FTD

ピック病では、前頭葉症状として様々な行動・心理症状が出現します。中等度の進行があっても認知症と思えないような方も多く、医師でさえそれを見抜くことが困難な場合があり、よくニュースにも取り上げられている、50代の働き盛りの方が万引きで逮捕されたという報道もあります。本人には病識も悪気もなく、ピック病と正しく診断されていなければ逮捕されたままになってしまい、本人や家族は病気による行為であるにもかかわらず、社会的な責任を負うことになってしまうのです。このピック病は比較的若い年齢層に多いと言われていますので、若いから大丈夫だと判断することには注意が必要です。

ピック病の症状とは

前頭側頭型認知症≒ピック病は、一見風変りな様に見えることがあります。代表的な前頭葉症状としては、同
じ行動を繰り返す、暴力、暴言、スイッチが入ったように急に怒りだすがけろっと直る、収集癖、盗癖、甘いもの好き、などがあります。また、家族が気づく頃には、高額な買い物を簡単にしてしまうなど、金銭感覚を著しく失い、貯金残高が無くなっていたということもあるのです。これらの行動は、我々が暮らす社会生活の中で人間は様々な状況に応じて理性が働くようになっているのですが、ピック病の特徴として、脱抑制(言ってはいけない事、行ってはいけない事を我慢できない状態)という症状があるのです。それを制御する場所が前頭葉にあり、その前頭葉に障害が起き、理性が欠落してしまう状態と言えるでしょう。

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ピック病の方でよく見られる行動では、隣の人の食事に手を付けてしまう、レクリエーションなどで周囲が騒がしくなると怒りだす、行動を制止すると怒りだす、手をたたき続ける、膝や手を擦り続ける、などが見られますので、介護者は注意深く観察する必要があります。

ピック病を見つけるスコア

前回の講座で紹介したレビー小体型認知症を見つけるためのレビースコアと同様に、ピック病ではピックスコアを活用するとよいでしょう。

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このピックスコアは名古屋フォレストクリニック院長の河野和彦先生が考案した、前頭側頭葉変性症を発見するためのスコアです。実際に診察で使用される時には画像所見も用いられるが、介護者でも使用できるようになっていますので、医療機関へ受診する際に付き添いの介護者はスコアの項目を覚えて参考にして下さい。

薬の副作用にも注意する

現在の医学ではピック病の症状はどの神経伝達物質が欠乏しているかは解明されておりません。しかし、抗認知症薬のアリセプトで興奮、易怒、徘徊などが強く出現することがあると多く報告されています。それはアリセプトが前頭葉にストレスをかけて、行動・心理症状が悪化していると言われています。医師の指導の下、ピック病患者がアリセプトを減量・中止したことで、周辺症状が治まるということもあるようです。実際に私の担当の利用者様は、アルツハイマーと診断され、アリセプトを処方されました、その後常同行動、徘徊、イライラも増えてきました。最初にこの利用者様にお会いした瞬間にピックらしさは感じていたのですが、(毎朝5時に起き同じコースを散歩する※ピック病の方は迷子にならずに帰ってくるがアルツハイマー型認知症の方は迷子になりやすい、わが道を行く行動、急に怒りだす、アリセプト服用後に外に出たくなると自分で理解している、同じ料理しか作らない)ピックスコアで採点してみると、7点でした。もちろん身体機能に問題はないのです。このままでは、徘徊が増え、事故に遭うことも予想されますので現在、関係者で調整を図っています。このようにピック病の方は物忘れ症状も目立たず、比較的身体機能も保たれており、一見認知症と見えない方も多くいます。改訂長谷川式スケール(認知機能検査)でも高得点を取る方も多いので見落とされる可能性があり注意が必要です。

ゴミ屋敷問題

現在、社会問題とされているゴミ屋敷。家屋内外を不要物などで埋め尽くされている状態で、腐敗臭や火災などの問題もあり、近隣住民からは不安の声が上がっている。このゴミ屋敷の家主の多くがピック病の疑いがあるという説もあり、その症状として収集癖、常同行動、清潔無関心(入浴しない、髪の毛を切らない・整えない)、反社会的言動・行動などが考えられる。これらの行動はピック病特有の症状で、前頭葉症状と言われているのです。こうなると行政の働きかけだけでは解決することが難しく、医療の介入が必要となるのです。ただし、このようなケースを病気として捉えた上で、前頭側頭葉変性症の可能性があるという知識がなければ、一向に解決には向かわないので、行政も含めた地域医療・福祉関係者の知識の底上げが急務となっています。

早期に介入することが重要

ピック病の特徴として、常同行動(同じ行動を繰り返す)があるため、早期にその症状を把握して、デイサービスや訪問介護などのサービスに繋げることも重要です。ピック病の中期になると入浴拒否や習慣になっている行動以外は受け入れないなどの状況が発生してくるからです。困ってから福祉サービスを導入しようとしても困難となることが多いのです。

次回は前頭側頭葉変性症の失語タイプ(意味性認知症)の特徴、見分け方、レビー・ピック複合型、他認知症からのピック化、その他の認知症の特徴について紹介します。

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