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ワライフ認知症講座④ 言葉の意味を失う認知症

DSCN1456株式会社ミヤビハウス 介護支援専門員
 小板 建太 氏

認知症勉強会を 無料で開催しています。 お気軽にお問合せ下さい。
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意味性認知症:SD

 前頭側頭葉変性症(FTLD)は2つのタイプがあり、認知症タイプと失語症タイプに分けられています。前回は認知症タイプ(前頭側頭型認知症≒ピック病)についてご紹介しました。ピック病は前頭葉が萎縮する認知症で、様々な介護者を悩ませる症状が出現し、時には暴力や暴言、常同行動、収集癖、盗癖、反社会的行動を繰り返し、万引きなどで逮捕されるというケースもあります。※(ピック病が原因で万引きを繰り返す患者の脳萎縮は軽いと言われており、画像だけで判断することは専門医でも難しいとされています。)
 意味性認知症の代表的な特徴として、「語義失語」があります。語義とは、言葉の意味で、その意味の記憶が消えてしまうのです。スプーンという言葉に対して、「スプーンって何?」など、その意味自体が消えてしまっているので、ヒントを出してもあまり効果がありません。もう一つの失語タイプである、進行性非流暢性失語(PNFA)
の場合、吃音(どもり)があり言葉が
出ない症状があるため、言葉の復唱にも障害が出ると言われています。介護者側のケアポイントとして、意味性認知症の方は言葉の数が進行過程において減少していくので、周囲との意思疎通が困難になることがあります。その結果、孤立状態になることもあるので配慮が必要です。

アルツハイマー型認知症との関係

 意味性認知症は前頭側頭葉変性症の一部であるが、専門医でさえも異なった考えを持っていると言われています。アルツハイマー型認知症やレビー小体型認知症などは器質的疾患であり、病理組織に老人班やレビー小体などを確認することができます。意味性認知症の多くはアルツハイマー型認知症と診断され、ピック病初期の多くは正常と判断されているのです。アルツハイマー型認知症では、頭頂葉や側頭葉後方に老人班が出現し認知症となり、神経伝達物質であるアセチルコリンが減少することから、抗認知症薬であるアリセプトの服用で症状が改善すると言われています。しかし、アルツハイマー型認知症であっても語義失語が出現したということがあれば、その進行過程で側頭葉前方、前頭葉へ病変が到達したということなので、やがて前頭葉症状が現れると言われているのです。それが「ピック化」なのです。

認知症講座第4回_03

ここで介護者が知っておかなければいけないことは、認知症と一括りにしてはいけないと言うこと、意味性認知症は器質的疾患ではないため、病理組織はアルツハイマー型認知症でも、症状(臨床的)は意味性認知症ということもあるのです。医師からアルツハイマー型認知症と診断されていても、やがてピック化した場合には、抗認知症薬が逆に介護の負担を増やすことにもなるからです。(※前頭側頭葉変性症は、神経伝達物質であるアセチルコリンの減少によるものではないとされているため、抗認知症薬の副作用で周辺・心理症状が悪化することがあると言われている)意味性認知症はやがて前頭葉症状が出現すると言われているので、介護者は注意深く観察することが重要となります。

意味性認知症と気づくポイント

 語義失語を伴う症状が出現することから、意味性認知症だと気づくポイントは、名古屋フォレストクリニック院長の河野和彦先生が考案した「コウノ式前頭側頭葉変性症検出セット」を試してみるとよいでしょう。
①「利き腕はどちらですか?」利き腕という意味を失っているため答えることはできません。
②「右手で左肩を叩いてください」の質問に、叩き方が分からない、首の後ろから叩こうとするなど。
③「サルも木から落ちる」の意味は何ですか?
④「弘法も筆の(   )?」

と4つの質問をして2項目以上できなければ意味性認知症の可能性があるという簡易的な検査なのです。

認知症講座第4回_02_03

 また、アルツハイマー型認知症の特徴的な脳萎縮がなく身体機能もしっかりしている方で、改訂長谷川式スケール(30点満点の認知機能検査)の得点が一桁台など、異常に低いのであれば、意味性認知症が疑われると言われています。検査の意味自体が分からないので低い得点となるのです。

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LPC:レビー・ピック複合型

 LPCとは、認知症医療の現場や介護現場で目の当りにしてきた疑問を解消する概念として、名古屋フォレストクリニック院長の河野和彦先生が2012年に発表された概念です。例えば、レビー小体型認知症の症状で治療・介護を受けてきた方に前頭葉症状(暴言・暴力、介護拒否など)が出現してくるといったことは多くありました。そうなるとレビー小体型認知症を勉強してきた医師や介護者には戸惑いが生じていたのです。それを素直にレビー小体型認知症とピック病が重なったと考えれば、医師も介護もストレスがなくなり、それぞれの特徴を踏まえた対応ができるのです。

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認知症医療・介護の未来

 現在の認知症医療は、アルツハイマー型認知症の研究が進められ、ワクチンや新薬の開発が期待されています。しかし、それらが開発されたとしても、レビー小体型認知症や前頭側頭葉変性症で苦しんでいる方の解決にはなりません。年間数千人の認知症患者を診ている専門医でさえ、レビー小体型認知症・前頭側頭葉変性症を除外してからでないと、アルツハイマー型認知症であると診断できないとまで言われています。現実の認知症医療の現場では、物忘れ=認知症と一括りに診断・治療が行われているので、レビー小体型認知症の薬剤過敏性、ピック病の抗認知症薬での興奮といった知識が医療者の間でも知られていないため、それらの副作用で介護負担が増大しているケースが後を絶ちません。
 もちろん、すべて薬によって解決できるわけではありませんが、認知症を病気として捉えることが重要なのです。本当にその診断が正しいのか、服用している薬の影響はないのか、介護家族や介護従事者が認知症医療を学び、医療は介護現場を学び、医療と介護の両輪を近づける努力をして行かなければ、認知症大爆発時代と言われている近い未来を乗り切ることは難しいでしょう。現在、国が進めている認知症対策として、各地域に専門チームを配置し、早期に認知症の対応をするという取り組みが行われようとしていますが、専門的な知識の裏付けなしには成果を出すことは難しいでしょう。認知症の方を地域で支えることができるように、認知症の方に関わる全ての人が正しい知識を得ることが大切なのです。

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