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ワライフ認知症講座 第6回

認知症講座0

認知症介護の問題点

認知症家族が抱える問題とは

 現在認知症の方を介護している方の多くがこの「真空地帯」で悩んでいると言われています。真空地帯とは、妄想や徘徊、暴言などの周辺症状で困っていても、医療からは「介護・福祉に相談して下さい」、介護・福祉からは「医師の指示を受けてください」と、解決にならない状態にいることです。
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頼ることのできない医師の一言

 認知症介護で困っている家族が、神経内科のクリニックに受診した時の出来事です。この方は2年前から物忘れ、活気がない、身の回りの事が出来なくなってきたなどの症状でクリニックを受診した。アルツハイマー型認知症と診断され、中核薬であるアリセプトの処方が開始された。
 3㎎から開始し、その後5㎎に増量し様子を見ているが調子は良いとのことで、さらに10㎎まで増量されました。
この頃から怒りっぽくなり、常にイライラしている状態で、外へ出て行ってしまうことも増え、家族は目を離せなくなり、生活に疲れを感じ、クリニックへ相談に訪れたのでした。
 経緯を説明し、医師に困っていることを伝えると、「認知症だからしょうがないよ」、「そのような行動は出てくるからな~」とそれだけでした。その後介護申請を薦められたのです。医師はそもそも認知症は治らない、どうしようもないという発想からスタートしているケースが多く見られる。医師にしょうがないと言われた家族は崖から突き落とされたような気持になるのです。このままでは家庭が崩壊するのに時間はかからないでしょう。いくら大切な家族であっても、精神的、肉体的、社会的な負担を絆だけで乗り越えることは難しいので、今困っている問題の一つでも解消できるような医療を医師は提供するべきなのです。

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 今回のケースは、中核薬であるアリセプトの服用で5㎎までは調子が良く、10㎎に増量してから問題が出現したことから、減量をしていれば問題の一つは解決できた可能性があるのです。また、中核薬の単独投与が可能な割合は4割程度とも言われています。多くの方は抑制系薬剤の併用が必要というデータも発表されているので注意が必要です。

要介護認定と認知症の矛盾

 介護保険サービスを受けるには、要介護認定を受ける必要があります。この要介護認定を受ける時に注意する点は、「身体介護」をベースに設計されているという点です。認知症の方の介護は比較的、初期の頃から介護負担は大きくなります。身体機能に問題はないので、介護認定の結果が低くなる傾向があります。また、認定調査時の質問に対して「困ってない、身の回りの事は自分で出来る」と答えてしまうことから、実際に困っていることが反映されにくいのです。また、初期の段階でスクリーニングし、適切な援助が開始出来ていれば、たとえ認知症が進行しても、比較的問題の少ない生活を過ごすことが出来るでしょう。しかし、現状では、要支援1・2、要介護1の方でも、なぜここまで家族が疲弊しているのかというケースは後を絶たちません。行政、援助者は、机上の話ではなく、認知症を見抜く力を身に着けなければ、今後の認知症患者増加に対応することはできないでしょう。

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認知症介護の特殊性

 介護・福祉の著名な方の多くが、「優しく接しなさい、目線を合わせてゆっくり話しなさい、否定しないで聞いてあげなさい」などと各地で演説をしている。介護施設職員であれば業務として当然であるが、24時間介護をし、疲れ切っている家族に対しそのようなことを言えるのだろうか?「地域で支えよう、その人らしくいつまでも住み慣れた場所で・・」非常に良いことである。ただ一つ置き去りにされていることがある、「介護者」です。医師からは「介護・福祉に相談しなさい」と言われ、介護からは「やさしく対応してあげてください」と言われる。
 ここが認知症介護の特殊性なのです。認知症の方の後ろにも目を向けるということが重要なのです。

〈不眠で困った家族〉

 要介護1、女性、レビー小体型認知症、介護者は妻、長男の嫁。孫は受験勉強が忙しい。3年ほど前から転倒を繰り返していたが、最近になって幻視が出現し、食事時によくむせるようになっていた。しかし家族は自宅で苦労なく介護をしていたが、徐々に睡眠障害が現れ、家族の生活リズムが崩れ始めたのです。その頃からデイサービスを勧められ利用することとなりました。
 症状はさらに悪化し、一睡もできない状態にまでなっていました。家族は医師に相談したが、「処方してもいいが認知症が進みますよ」と言われ、ケアマネジャーからは、「睡眠薬は使わない方がいいですよ、薬を使うなんて可哀そうですよ」と言われたそうです。
 これこそ真空地帯です。そもそも睡眠薬で認知症の進行が早まるといったデータなどどこにもないのです。睡眠薬の用量が過剰で、一時的な意識障害から認知機能が低下したように見えているだけのことが多いのです。ケアマネジャーの対応は机上のお話では正解なのです。「本人を中心に」という理念がケアマネジャーの基本的な姿勢なのです。しかしこのままでは家族は疲弊していくでしょう。本人は寝たくないのでしょうか?我々でも徹夜すればフラフラになりとても辛い状態になります。寝たくないのではなく、認知症という病気のせいで寝たくても寝られないのです。睡眠薬を使うなんて可哀そうではなく、寝られない本人、そして2次的に睡眠障害となる家族のほうが辛いと言う現実を考えなくてはいけません。介護の世界では薬物療法は非人道的であるという意識が強くあります。認知症医療の歴史の浅さから適切な医療が提供されず、その副作用から薬物療法が避けられてきたのです。たとえば10㎎の睡眠薬でフラフラになり転倒の危険があるのならば、半分の5㎎にする、中核薬の影響で介護負担が増えたのなら、減量してもらうなど、個々に合った医療(オーダーメイド処方)であれば家族の負担は軽減され、認知症の方の辛さも解消されるでしょう。今後の認知症患者の増加を考えると介護者が認知症医療を学び、受け身の医療ではなく、医師と共に情報を共有・提案し、少しでも楽な介護が出来るようにする必要があります。

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