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【連載もの】介護制度について考える 第9回(平成25年夏号掲載)

西村氏
ホームヘルパーを利用して  愛知大学 地域政策学部 教授 西村正広氏

 

■慣れることが大切

両 親は自立した「ふつうの生活」を望みながらも、体の不自由や病気や物忘れのためにだんだんそれができなくなっていました。けれど老いた両親がその現実を受 け止め、ホームヘルパーの利用を受け入れるには時間がかかりました。ヘルパーさんを利用し始めたころは、私が電話するたび、母はヘルパーさんのちょっとし たミスや物足りない仕事ぶりについて不満を言っていました。でも人は、慣れることによって心の抵抗が少なくなるものです。週2回のヘルパーさんの訪問も、 回数を重ねて日常化することで父も母も徐々に受け入れ、頼りにするようになりました。私は月に1度札幌の実家へ行き、ヘルパーさんが訪問のたびに書き残し てくれる業務記録に目を通しました。
「きょうは、ご夫婦で笑って出迎えてくれました」「奥様と一緒に肉じゃがを作りました」「御主人から、昔の話をしていただきました」などの記述から、ヘルパーさんと両親の信頼関係が築かれていく様子が伝わってきました。

■肉親ではないけれど

でもホームヘルパーは肉親ではなく、あくまで介護サービスです。できることとできないことが定められ、すべての要望に応えられるわけではありません。たとえば、居間の掃除はしてくれますが、窓拭きや階段、仏壇などの掃除はできません。
母は、庭に来る野鳥やリスにエサを与えるのを昔から楽しみにしていて、いつもせっせとパンの耳を刻んだり、干したトウモロコシを砕いたりしてエサを用意 していました。手が不自由な母はそれもヘルパーさんに頼みたいのですが、動物のエサづくりまでは認められません。仕方なくスナック菓子や市販のエサを与え るようになりましたが「来る鳥が少なくなった」と言います。ホームヘルパーは公的な介護サービスですので、必要な家事は介護保険給付で行い、プラスアル ファのサービスは自費でやれるような柔軟性のある運用が可能になればと思います。

■ヒューマンサービスということ

ホー ムヘルパーは「人による人へのサービス」ですから、利用者との人間的な触れ合いを基礎にして、より良い人間関係を築きながら業務を進めるのが理想です。優 れたヘルパーさんは、「介護や家事の技術も大切だけれど、良いコミュニケーションを作ることが最優先」と言います。私も教員として、社会福祉職や医療職を めざす学生へ同じことを伝えてきました。
幸い両親を担当したヘルパーさんたちは、父や母と良好な関係を作り信頼を築いていただけたようです。ところが、両親のところへホームヘルパーを派遣して いた「Kヘルパーステーション」では新しく支所をオープンし、平成24年4月からはその支所から別のヘルパーさんが来ることになりました。せっかく慣れた ヘルパーさんたちだったのに、と母は残念がりました。でも新しい支所の所長さんは、直接両親にヘルパーさんたちが交代する理由を説明に来られ、ヘルパーさ ん同士の引継ぎはしっかりやりますと約束してくれました。おかげで新しく来たヘルパーさんたちも、両親との関係を上手く取り結んで支援をしてくれていま す。
ホームヘルパーはあくまでも社会的な介護サービスの一種です。さまざまな規則や制限の下で運用され、ひんぱんに交代もします。だからといって事務的機械 的で能面のような顔をしたサービスではありません。人の手によって人の暮らしを支えるヒューマンサービスです。しっかりと信頼関係を取り結んでくれる優れ たヘルパーさんが必要です。そのためにもホームヘルパーの待遇や社会的地位を高め、専門性を向上させることが望まれます。

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西村正広氏略歴:日本福祉大学大学院修了
社会保険中京病院
ソーシャルワーカーなどを経て現職
専門:社会保障

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