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「動かないこと」のリスク

医療法人社団福祉会 高須病院 看護部 副看護部長
糖尿病看護認定看護師 日本糖尿病療養指導士
兵頭裕美

 こんにちは。まだまだ寒い日が続きますが、いかがお過ごしですか?寒さを理由にこたつで丸くなっていませんか?今回は、そんなみなさんのために、「動かないことのリスク」についてお伝えいたします。

「不活動」への警鐘

 2015年の米国糖尿病学会における身体活動のガイドラインでは、従来通りの有酸素運動やレジスタンス運動(筋力トレーニング)を実施することに加えて、不活動の時間を減らすことを追加しています。不活動とは、寝ている状態のみでなく、会議やデスクワーク、家事中の座位活動などを含んだ体を動かしていない状態のことを指します。ガイドラインではとくに、座位を90分以上持続しないように警鐘を鳴らしています。

動かないとどうなるか?

①糖尿病、心臓・脳血管疾患の発症 リスクを高める
 豪州で行われた研究で、中~高強度の運動を実施していたとしても、座位時間が長くなればなるほど死亡率が高くなるという報告がされています。たとえば、1日のテレビ視聴時間が2時間を超えると2型糖尿病の発症リスクが20%、致死性および非致死性の心疾患リスクが15%、何らかの原因による早期死亡リスクが13%高くなるとしています。また、不活動時間の増加と食後血糖値の上昇に相関があることが示唆されています。これらのことから、座位時間を含めた不活動時間の増加は有酸素運動やレジスタンス運動の実施有無にかかわらず、健康被害をもたらすということがいえます。つまり、ガイドラインに示された運動を実施していたとしても、それ以外の時間で不活動時間が長ければ、様々な健康被害をもたらしてしまうことになります。そこで、近年、連続して90分の座位時間を持続しないように推奨されています。

②がん・認知症のリスクを高める
 さらに、身体不活動と各疾患発症に関する興味深い結果の報告があります。身体不活動による各疾患のリスクを検討した結果、糖尿病発症に対して20%、冠動脈疾患発症に対して16%、乳がん発症に対して33%、大腸がん発症に対して33%、あらゆる原因を含めた早期寿命に対して28%リスクを高めることがあきらかとなりました。糖尿病や心疾患だけでなく、乳がんや大腸がんまでもが身体不活動によってもたらされる可能性があるということになります。
 また、身体不活動はアルツハイマー病の発症リスクを82%高めるなど、身体不活動が認知症に密接に関連していることがあきらかになっています。このように体を動かさないことは、様々な疾患を発症させ、甚大な健康被害をもたらすことがわかっており、身体不活動への対策に注目が集まっています。

エネルギー消費量からいえること

 1日のエネルギー消費量において、基礎代謝量(安静状態でも呼吸、心臓の動き、体温維持などの生命活動を維持するために消費される、必要最小限のエネルギー代謝量)が大半を占めており、そのほか食事摂取による食事誘発性熱産生、運動によるエネルギー消費である運動性熱産生、非運動活動によるエネルギー消費である非運動性熱産生(NEAT:ニート)により消費しています。

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 基礎代謝を除いたエネルギー消費において、NEATの占める割合が多く、いかにNEATが重要であるかがわかります。NEATはおもに生活活動としてのエネルギー消費であり、立位での様々な活動や家事動作を含んでいます。それぞれの生活活動は比較的低強度ですが、1日のなかで頻回に行われる動作であり、結果として消費エネルギーは、運動で実施した消費エネルギーよりもはるかに多くなります。不活動時間の増加は健康被害につながります。不活動時間の増加はNEATの減少を意味しており、NEATの増加は不活動時間の減少につながります。
 したがって、意識的にNEATを増加させるような介入は不活動時間の減少につながります。有酸素運動やレジスタンス運動を実施するだけでなく、NEATを増加させ、座位などの不活動時間を減少させるようなかかわりが必要です。

不活動をどうとらえるか

 有酸素運動やレジスタンス運動を習慣的に実施している患者さんであったとしても、運動以外の時間もこまめに動いて、不活動時間が少なくNEATが多いとは限りません(図2)。ある患者さんの1週間の活動量を調べたところ、1日30分程度の運動強度中等度の運動を毎日行っていても、不活動時間は日中の時間の71%を占めていました。

 このような患者さんに「運動していますか?」と問えば、当然自信をもって「運動しています」と答えられるでしょう。このような運動習慣がある方にも不活動時間を意識していただくためには、運動している時間を確認するだけでなく、運動していない時間の過ごし方も併せて聞いていく必要があります。

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 前述したように、運動による身体活動量の増加だけでなく、不活動時間を減少させることは、糖尿病だけでなく、そのほかの疾患予防や健康寿命を延ばすために非常に重要です。以前、本誌で運動療法について紹介した際に、「日常生活のなかでこまめに体を動かすことから始めてみましょう」と述べたと思います。

 今回は、糖尿病だけでなく、さまざまな疾患に対する不活動の影響を知っていただきました(図3)。「運動以外の時間もこまめに動かないと糖尿病が悪化しますよ」と言われても、ピンとこない方も多いと思いますが、「日常生活の中でこまめに体を動かすことでがんや認知症になってしまう危険が減りますよ」といわれると、できることからやってみようかな…と思えませんか?寒くて体を動かすことが億劫になってしまうこの時期だからこそ、日常生活の中でのこまめな身体活動をこころがけて、健康にお過ごしください。

参考文献
井垣誠 他;「運動嫌いの心をつかむ知恵とアイデア大特集」;
糖尿病ケア;2016 vol.13 No2;メディカ出版

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