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【医療】PETで見る認知症(平成24年7月号掲載)

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PETで見る認知症

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■認知症の定義
認知症とは、後天的な脳の器質的障害により、正常に発達した知能が低下した状態を言います。これに対し、先天的に脳の器質的障害がある状態を、知的障害あるいは認知障害と言います。
認知症は病態をさすもので病名ではありません。認知症を引き起こす病気は、血管性認知症、変性認知症(アルツハイマー病、パーキンソン病、前頭側頭型認知 症、レビー小体病など)、感染(クロイツフェルト・ヤコブ病、HIV)、治療可能なもの(慢性硬膜下血腫、正常圧水頭症、甲状腺機能低下症)などがありま す。このように認知症の原因となる病気は多いですが、図1に示すようにその約半数がアルツハイマー病で、1/3が脳血管障害による認知症です。

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■脳画像診断
脳の画像診断に用いる検査装置としてCT、MRIなどが一般的です。これらは脳の形を断層像とした、形態的診断法です。一方、PET検査はがんの診断法と して一般的に知られています。実は、現在がん診断に使用されているブドウ糖に18-Fを標識した薬剤(以下、FDG)も最初は、脳の糖代謝診断用、つまり 脳の機能診断のために開発されました。PETが他の画像診断法と大きく異なる点は、形態ではなく、脳の働きを画像化しているという点です。図2は各装置の 健常者の脳画像です。CT、MRIでは脳萎縮のない健康な脳であることがわかります。PETでは脳が働いているところにFDGが集積するので、赤や黄色の 部分は脳が働いていることを示しています。

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■認知症の診断
認知症の診断は、認知症のテストなどにより可能ですが、その原因となる病気を特定するのは困難です。一般的には臨床症状から病名を診断しますが、CTや MRIなどの画像診断法、さらには脳波や血液・髄液などの生化学的検査を行って診断することも多くなりました。しかし認知症発症者は高齢の方が多く、いく つかの疾患が複合しているため、認知症の原因診断を難しくしています。
図3にアルツハイマー病と脳血管性認知症の関係を図示しています。高齢者の場合、自覚症状はなくとも小さな脳梗塞が存在していることが多く、また脳出血や 脳梗塞を起こしても多くの場合は社会復帰されています。身体的障害が残ったとしても認知症に至らない方が多く、脳血管性認知症になる方は脳血管障害を起こ した方の一部に留まります。しかしアルツハイマー病はほぼ全例が認知症に発展します。
過去には、脳血管性認知症と診断されても、実際はアルツハイマー病であった方もいました。これは認知症診断の難しさを示す一例です。現在ではMRIなどの 画像診断を用い、間違いは少なくなりました。しかしA+Bのような脳血管障害があり、かつ認知症が存在するという場合、アルツハイマー病が原因であると診 断することは困難です。しかもA+Cのように両者が認知症の原因となっている場合もあり、診断に苦労します。

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■PETの認知症診断
図4はMRIとPETの脳画像の比較です。左側の画像1は健常な方の脳画像です。画像2は脳梗塞(→)が認められますが、PETでは脳機能に影響を受けていません。よって認知症ではない方です。画像3は同じく脳梗塞(→) の方です。ただしMRIで認める梗塞部位に一致して、PETにおける前頭へのFDGの集積が低下していて、機能が低下していることを示しています。この方 は認知症が始まっています。画像4のMRIは、側頭葉に脳萎縮を認めますが、年齢相応の脳です。しかしMRIで萎縮を認めない後頭(楔前部)に、PETで は著名な集積低下(→)を認めます。この方は早期のアルツハイマー病です。画像5のMRIはとても健康な脳です。しかしPETでは集積低下が著しく、特に楔前部から後頭回にかけての低下(→)が著しいです。PETにてレビー小体型認知症と診断できます。画像6は画像4と同じようにMRIで側頭葉の萎縮を認めますが、他は特に異常を認めません。しかしPETにおいては前頭葉から側頭葉にかけて集積の低下が認められ、前頭側頭型認知症を認めた方です。
これらの認知症の方は認知症のテスト(MMSE)にて22〜26点の点数(30点満点)を取っていますが、一般に24点以下で認知症の疑い有りとなります。
認知症は脳の神経が脱落して生じる病気です。このため進行すると脳は萎縮し、MRI検査においても明確に診断ができます。しかし認知症の早期段階では、 MRIで見られる脳萎縮がなくとも既に脳の神経の働きは低下し、PETにおいて明確な集積低下として描出されます。病気の種類によって集積低下部位が決 まっているため、PETによる画像診断で病気の種類も診断できます。

■アルツハイマー病診断
全ての認知症について説明するのは誌面上無理ですので、アルツハイマー病について話をします。
図5にアルツハイマー病の病気進行をグラフにしました。下の横軸はおおよその年齢です。アルツハイマー病を引き起こすのは、脳内にアミロイドβが沈着し、 老人斑ができτタンパクが脳の神経を繊維化して、徐々に認知症が進行します。アミロイドβが沈着し始めて10〜20年たってから認知症が始まります。
現在はFDG-PETによって早期の認知症診断が可能です。しかしアミロイドβを画像化できれば将来、アルツハイマー病になるかどうかが事前に診断可能と 考え、アミロイドイメージング製剤の開発が始まりました。それが図6のアミロイドPET画像です。左側の画像は健常な方の脳で、アミロイドβはありませ ん。右側はアルツハイマー病の方で、アミロイドβがたくさん存在していることがわかります。

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■将来の認知症
PETは種々な物質に放射性同位元素を標識することができ、色々な検査を行うことができます。つまりアルツハイマー病の原因物質であるアミロイドβも、次の段階のτタンパクも標識することで、PETによる画像化が可能です(図5)。
現在このアミロイドイメージング製剤の第三相試験が世界的に行われていて、近い将来この検査によってアルツハイマー病に罹患する可能性を知ることができるようになります。
他の認知症についても、その原因となるメカニズムは追究されています。将来的にはより早期の診断をもとに、ワクチンのように認知症を発症させない薬の投与 も行われていくことでしょう。しかし頭と身体をよく動かすことが、認知症予防の第1歩であることに変わりはありません。

 

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